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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)122号 判決

東京都杉並区松ノ木町一、一七四

原告

杉並中央生活協同組合

右代表者理事長

青山義男

右訴訟代理人弁護士

竹沢哲夫

千葉憲雄

東京都杉並区東田町一の六二

被告(昭和四三年(行ウ)第一二二号)杉並税務署長

内藤近義

東京都千代田区大手町一の七

被告(昭和四三年(行ウ)第一二三・二一二号)東京国税局長

中橋敬次郎

右指定代理人

豊島徳二

石塚重夫

中川精二

佐々木宏中

柴田定男

右当事者間の法人税課税処分取消、法人税審査決定処分取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告

(昭和四三年(行ウ)第一二二号事件)

(一)  被告杉並税務署長が、昭和四〇年六月三〇日付で原告の昭和三七年四月一日から同三八年三月三一日までの事業年度分(以下単に昭和三八年度分という。)法人税額を四六、六七〇円、昭和三八年四月一日から同三九年三月三一日までの事業年度分(以下単に昭和三九年度分という。)法人税額を三八、〇八〇円とした更正処分は無効であることを確認する。

(二)  右被告が昭和四一年六月二九日付で原告の昭和三九年四月一日から同四〇年三月三一日までの事業年度分(以下単に昭和四〇年度分という。)法人税額を七三、二四〇円、通少申告加算税額を三、六五〇とした更正ならびに賦課決定処分は無効であることを確認する。

(三)  訴訟費用は同被告の負担とする。

(昭和四三年(行ウ)第一二三号事件)

(一)  被告東京国税局長が原告に対し昭和四三年三月三〇日付でなした原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取消す。

(二)  訴訟費用は同被告の負担とする。

(昭和四三年(行ウ)第二一二号事件)

(一)  被告東京国税局長が、原告に対し昭和四三年八月一六日付でなした審査請求を却下する旨の各裁決を取消す。

(二)  訴訟費用は同被告の負担とする。

二、被告ら

主文と同旨

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(昭和四三年(行ウ)第一二二号事件)

(一)  原告は、営利を目的としない病院、保育園の経営を業とする協同組合であり、青色申告制度が施行されて間もない昭和二六年ないし二七年頃、被告杉並税務署長に対し青色申告承認申請手続をなし、同被告の承認を受けた。

(二)  原告の決算は、昭和三八年度分の利益金一六三、七四三円のところ、繰越欠損金九三六、五九一円があり、昭和三九年度も利益金九四、七四二円に対し、繰越欠損金六七八、一〇六円があり、また、昭和四〇年度も利益金二〇八、〇六五円に対し繰越欠損金四七〇、〇四一円があつたので、法人税法(昭和四〇年法律第三四号改正前、以下同じ。)九条五項の規定に従い右欠損金額をそれぞれ損金算入したうえ、青色申告による各年度の確定申告書を被告税務署長に提出したところ、同被告はこれに対し前記申立記載の各更正処分ならびに過少申告加算税賦課処分をした。

(三)  これに対する原告の異議申立および審査請求ならびに被告らの決定等処分の経過は次のとおりである。

昭和三八年度

〈省略〉

(注) 被告国税局長は、異議決定および審査請求がなされなかつたものとして、異議申立を国税通則法(昭和四五年法律第八号改正前、以下同じ)八〇条一項一号により昭和四一年一〇月二六日審査請求とみなして裁決したものである。

昭和三九年度

〈省略〉

(注) 昭和三八年度の表の注と同じ。

昭和四〇年度

〈省略〉

(四)  本件各更正処分および過少申告加算税賦課処分は次の理由により無効である。すなわち、

1 本件更正処分および賦課処分は、青色申告承認の事実がないことを前提としてなされたものであるが、原告は前記のごとく被告税務署長より青色申告承認を受けているのである。その事情を述べると、青色申告制度が施行された当初約一〇年ばかりは、各税務署においてその説明会を開催して右制度の普及に努めていたが、原告は昭和二六・二七年頃杉並税務署の主催する説明会に出席したうえ、その頃被告税務署長に対し青色申告承認申請手続をなしその承認を受け爾来十数年に亘つて青色申告による法人税の確定申告をしてきた。現に、同被告からも昭和二七年以降申告時期になると青色申告の用紙を原告宛に送付してきており、このことからも右承認の事実が裏付けられるものである。

2. 仮りに、被告税務署長が原告の青色申告承認の申請に対しその承認をした事実がないとしても、同申請の時から十数年に亘つて原告の青色申告が継続してなされたのに対し、同被告において何らの異議も留めずこれを受理してきたのであるから、このような場合には、青色申告の承認をしたものとみなすべきである。

仮りに、右主張は理由がないとしても、被告税務署長は原告の前記青色申告承認申請に対し、当該事業年度終了の日までにその申請につき承認または却下の処分をしなかつたから、法人税法一二五条によりその日においてその承認があつたものとみなされるのである。

3. 以上のごとく、本件更正処分および賦課処分は、原告の青色申告承認の事実を無視し、原告を青色申告法人ではないものとしてなされたものであつて、その点で重大かつ明白な瑕疵の存する無効な処分である。

ところが、被告税務署長は、本件係争年度分のみならず、今後も原告の青色申告資格を否認する態度が明らかである。

したがつて、個別的処分の取消訴訟で勝訴しても、青色申告を無視した無効な処分が繰返される虞れが十分であるから、単なる係争処分の取消訴訟では目的を達することができないので、本件各処分の無効確認を求める。

(昭和四三年(行ウ)第一二三号事件)

原告は、昭和四〇年度分につき前記の経過により昭和四一年一〇月一九日被告国税局長に対し審査請求をしたところ、同被告は昭和四三年三月三〇日付(法四二第五五四号)で右請求を棄却する旨の裁決をした。

しかし、右については、原告は同被告に対し口頭審理の申立を行い、意見陳述の機会を求めたにもかかわらず、これを無視し、何ら弁明の機会を与えなかつた。しかも、同被告担当職員が本件審査請求直後に調査のため原告組合を訪れた際、「これは税務署の方が悪い。」と明言しておきながら、その後約一年半も放置したまま何ら弁明の機会も与えずに突如として棄却したのは、手続上の重大な瑕疵があるといわざるをえず、違法であるから右裁決の取消しを求める。

(昭和四三年(行ウ)第二一二号事件)

原告は、昭和三八、三九各年度分につき前記経過により昭和四一年一〇月一九日被告国税局長に対しいずれも審査請求をしたところ、同被告は昭和四三年八月一六日付(法四三第二七五、二七六号)で右請求を却下する旨の各裁決をした。しかし、同処分は、いずれも次の点で違法であるからその取消しを求める。

(一) 右各裁決は、被告税務署長の異議決定およびこれに対する原告の審査請求がなされていないことを前提として国税通則法八〇条一項一号により原告の異議申立(昭和四一年七月二五日付)を審査請求とみなしてしたものであるが、原告は既に昭和四一年一〇月一九日審査請求をしているのにこれを無視しており、明らかに手続上の重大な瑕疵がある。

(二) 仮りに、前記裁決が右「みなす審査請求」につきなされたものであつても、被告税務署長はその際原告に対し国税通則法八〇条二項に定める通知をしていない。

二、被告らの認否

(一)  被告杉並税務署長(昭和四三年(行ウ)第一二二号事件)

請求原因(一)項のうち、原告が営利を目的としない病院、保育園経営を業とする協同組合であることは認めるが、その余は否認する。同(二)項のうち、原告の各年度分の決算書類上原告主張の繰越欠損金の記載がなされていること、原告が右年度において青色申告の用紙を使用して確定申告をしたこと、これに対し被告税務署長が原告主張の更正処分および賦課処分をしたことは認めるが、原告は青色申告の承認を受けておらず、したがつて法人税法九条五項の適用もありえない。同(三)項のうち、昭和三八、三九各年度分につき異議決定およびこれに対する審査請求がなされたとの点を除き、その余は認めるが、その事情は後記被告主張のとおりである。同(四)項のうち、本件更正処分および賦課処分が青色申告承認の事実がないことを前提としてなされた点は認め、原告が青色申告の承認を受けたとの点は否認し、その余はすべて争う。

(二)  被告東京国税局長

昭和四三年(行ウ)第一二三号事件につき、原告主張の審査請求に対し同被告が昭和四三年三月三〇日付で右請求を棄却した点は認めるが、その余は争う。

同第二一二号事件につき、原告の昭和三八、三九各年度分につき、原告の昭和四一年七月二五日付異議の申立を原告主張の前提によつてそれぞれ審査請求とみなし、昭和四三年八月一六日付でいずれもこれを却下した点、原告に対し被告税務署長が国税通則法八〇条二項による通知をしなかつた点はいずれも認めるが、その余の点は争う。

三、被告らの主張

(一)  被告ら両名

本件更正処分等に関する原告の不服申立とこれに対する被告らの決定ないしは裁決の事情は次のとおりである。

1. 原告は、被告税務署長に対し昭和四一年七月二五日付異議申立書を提出したが、その「異議申立てにかかる処分」欄には、異議申立にかかる処分の通知に付されてある年月日を記載すべきであるのに何らの記載もされていなかつた。

のみならず、異議申立は処分のあつた日の翌日から一年を経過したときは正当な理由がある場合を除きこれをすることができないものと定められている(国税通則法七六条四項)のに、前記異議申立は、昭和三八、三九各年度の更正処分のあつた日(昭和四〇年六月三〇日)の翌日から起算して一年以上経過し、かつ、期間徒過につき正当な理由の存在も認められなかつたので、被告税務署長は、右両年度の更正処分に対する異議申立ではなく、昭和四〇年度の更正処分(昭和四一年六月二九日付)に対する異議申立であると判断し、これを審理したうえ、同年九月二一日付で棄却の決定をしたのである。

2. 原告は、被告税務署長の右決定後、同年一〇月一九日被告国税局長に対し審査請求をした。そこで、同被告は、審査の結果、これは昭和四〇年度分に関するものであり、異議申立の理由も、原告が青色申告法人であるから当該事業年度の所得金額より繰越欠損金額を控除すべきであるというにあつて、原告が青色申告承認の申請書を提出した跡も認められない以上理由のないこと明らかであると判断して、昭和四三年三月三〇日右審査請求を棄却する旨裁決した。

3. ところが、原告は前記異議申立書には、昭和三八年度分および昭和三九年度分にかかる異議申立を包含するものであると申立てた。そこで、右異議申立は国税通則法八〇条一項一号によりその申立の日から三か月を経過した昭和四一年一〇月二六日をもつて審査請求があつたものとみなされたが、前記のごとく右異議申立は法定期間を徒過した後にされた不適法なものであつたので、被告国税局長は昭和四三年八月一六日同審査請求をいずれも却下する旨裁決したのである。

(二)  被告杉並税務署長

1. 原告は、青色申告承認申請書を昭和二六年中に提出し、爾来十数年青色申告による確定申告をしてきたというが、被告税務署長が原告に対し青色申告の承認を与えた事実はなく、また、原告は昭和三四年度につき単に決算書を提出したことはあるが、それは法令に定める確定申告書の様式を具備するものではなかつたし、昭和三四年四月一日から同三七年三月三一日までの事業年度については、確定申告書はもとより決算書類の提出もされていない。

2. 被告税務署長は、青色申告者ではない原告に対し青色申告の用紙を送付したことはない。もつとも、同被告は、原告を含め同被告管内の納税義務者に対して法人税確定申告期限のおおむね一か月前頃申告納税の勧奨と申告の便宜を計る目的をもつて申告用紙を必要な部数だけ送付している。しかし、この申告用紙送付事務は、被告税務署長が確定申告等の事績に基づき作成保管している法人税事務原簿に依拠して行うようにしており、当該納税義務者に青色、白色のいずれを送付すべきかを誤ることは通常ありえないことであり、ましてや数年連続して誤り送ることは経験則上全くありえないことである。のみならず、全国各地の税務署の窓口において、右申告用紙を何人も容易に入手することができ、これと税務署から送付されるものとは全然区別の方法がない。さらに、同種申告用紙は市販されており(日本法令様式販売所発売)、原告が青色申告用紙により申告したからといつて、その用紙が原告主張のごとく必ずしも同被告より送付したものであるとはいえない。

3. 青色申告の承認を受けていない法人がたとえ十数年青色申告用紙による確定申告をなし、税務当局がこれに何らの異議を留めなかつたとしても、それのみによつて当該法人が青色申告法人に転化するいわれはない。

4. 本件各事業年度分の課税標準の計算の内訳は左記のとおりである。

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

(三)  被告東京国税局

1. 原告は、被告国税局長が何ら弁明の機会を与えなかつたと非難するが、同被告の協議官は原告の本件審査請求につき昭和四二年一月二〇日、同月二四日および同年二月一三日の三回に亘り原告の事務所におもむき、必要な意見聴取を行い、その際、原告の理事矢根軍市は、不服があるのは昭和三八年度から同四〇年までの更正処分であり、その理由は原告が青色申告法人であることを無視し、繰越欠損金の控除を認めない点であると弁明するなど、原告の意見陳述の機会は十分に与えられている。また、右第二回の調査の折、協議官は矢根理事に対し青色申告承認申請書を提出した証拠になるものが存在するならば差出すよう申入れたが、最後まで何ら提出されなかつた。

2. 原告は、協議官が「これは税務署の方が悪い。」と発言した旨主張するけれども、その真相は、原告の矢根理事が税務署からも青色申告の用紙が送付されてきているので、「もしそのとおりであるならば、それは税務署の不注意であることが明らかである。」との趣旨を述べたに過ぎない。

3. 原告は、みなす審査請求につき、既に存する被告税務署長の異議決定および原告の審査請求を無視してなされたことになり、手続上重大な瑕疵があると主張するが、原告の昭和四一年一〇月一九日付審査請求は前記のとおり同年九月二一日付異議決定を経たのちの処分についてなされたものであるところ、同決定は昭和四〇年度分に関するものであるから、右審査請求も当然同年度分にかかるものとして裁決されるべきは論をまたない。

4. 原告は、このみなす審査請求につき被告税務署長の通知がなかつたので、昭和四三年八月一六日付裁決は重大な瑕疵が存すると主張する。なるほど、国税通則法八〇条二項に、このような場合税務署長は異議申立をした者に通知しなければならないと定めているが、同条一項によると、異議申立の日の翌日から起算して三か月を経過する日までに税務署長の決定がなされないときは、自動的に審査請求がされたものとみなされるのであつて、申立人に右通知が送達されてはじめて審査請求とみなされるものではないから、同条二項の通知はみなす審査請求の効力要件ではない。のみならず、本来、この規定は異議申立人が審査請求に移行したことを知らずに税務署を訪れたりすることのないよう申立人の便宜を配慮した規定であつて、右通知を欠くからといつて本件裁決が違法となることはありえないのである。

第三、証拠

一、原告

甲第一ないし第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一ないし四、第八ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第一四ないし第一七号証を提出。

証人矢根軍市(第一、二回)、同照井伸興の各証言を援用。

乙号証のうち、第四号証、第五号証の一、二、第六、第七号証、第八号証の一ないし五、第九、第一三、第一四号証の各成立を認め、その余の乙各号証の成立は不知。

二、被告ら

乙第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一、二、第六、第七号証、第八号証の一ないし五、第九、第一〇号証、第一一、第一二号証の各一、二、第一三、第一四号証を提出。

証人細川伸吉、同宮里正樹、同表志づ江の各証言を援用。

甲各号証の成立をいずれも認める。

理由

第一、昭和四三年(行ウ)第一二二号事件について

一、原告が営利を目的としない病院、保育園の経営を業とする協同組合であること、被告税務署長が原告の昭和三八年度ないし同四〇年度の各法人税確定申告に対し原告主張の更正処分および過少申告加算税賦課処分をしたことは当事者間に争いがない。

二、原告は、青色申告制度が施行されて間もない昭和二六年か二七年頃被告税務署長に対し青色申告の承認申請手続をしてその承認を受けたと主張し、同被告はこれを否認するので、まず、この点につき判断する。

成立に争いのない乙第五号証の一、二、第六、七、九号証に、証人宮里正樹、同細川伸吉の各証言ならびにこれらの証言によつてその成立を認めうる乙第一一、第一二号証の各一、二を総合すると、次の事実が認められる。

杉並税務署における法人税に関する事務処理上最も基本的な帳簿である法人税事務原簿にも、原告を青色申告法人として承認した記載は全く認められないし、他に原告から青色申告承認の申請手続がなされたことを窺知しうるような書面は存在しない。昭和三三年四月一日から同三七年三月三一日までの事業年度については原告から確定申告書の提出もなされず、被告税務署長は、一貫して原告を白色申告の法人として取扱い、本件更正処分等に先立ち、昭和四一年六月一七日右被告の係員より原告に対し、原告は青色申告を承認された法人ではないから、法人税の確定申告において繰越欠損金の損金控除は認められないことおよび青色申告の承認申請書を提出するようにとの注意を与えたほどである。

もつとも、証人矢根軍市(第一、二回)、同照井伸興の各証言によると、原告はその主張の頃被告税務署長に対し青色申告承認申請の手続をとり、その承認を受け、以来継続して青色申告による確定申告をしてきた旨の各供述があり、また、原告が青色申告の用紙を使用して昭和三八年度から同四〇年度までの法人税確定申告をしたことについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一〇ないし第一二号証によると、原告が昭和四〇年四月一日以降同四三年三月三一日までの各事業年度についても青色申告用紙により確定申告をしたことが認められる。しかしながら、右各証言は前掲各証拠に、以下の事実を総合するとたやすく信用できない。すなわち、原告の役員である証人矢根が青色申告承認の申請手続をしたその控えが現存しないことについて述べているところは、ただ事務室の移動の際などに紛失したかもしれないというのみで判然とせず、また、乙第五ないし第七号証の決算書は、原告から監督官庁に対して送付したものであつて、法人税の確定申告とは無関係であるとの同証人および証人照井の各証言に徴しても、もし原告主張のごとく青色申告の承認がなされてその申告をしてきたのであれば、原告の監督官庁でない税務署に青色申告に関する書類のほかにこのような決算書を送付することは不合理である。甲第三、第四号証(成立に争いがない)の法人税額等の申告是認通知書も、当該申告にかかる法人税額を是認するというに過ぎず、それが青色申告あるいは白色申告のいずれによりなされたものであるかを確認しうる資料とは認め難い。そして、証人細川伸吉の証言ならびに弁論の全趣旨によると、青色申告の用紙は、税務署から納税義務者宛に送付されるものと窓口で交付されるものとは同一であつてその差異がないものと認められるから、原告が行つた前記確定申告の用紙が同税務署から送付されたものであるとは必ずしも断定することはできない。

以上の事実を総合考慮すると、結局、原告は被告税務署長に対し青色申告の承認申請の手続をした事実もなく、したがつてその承認を受けていなかつたものと認めるのが相当であり、他に同認定を動かしうる証拠はない。

三、次に原告の予備的主張(請求原因(四)2)も、前記のごとく、原告が青色申告承認申請の手続をした事実もなく、また、十数年継続して青色申告をした事実も認められないので、右主張はその前提を欠き採用するに由ない。

なお、本件各年度の課税標準額およびその計算が被告税務署長の主張するとおりであることについては、原告の明らかに争わないところからであるから、これを自白したものとみなされる。

そうすると、同被告のなした本件更正処分および賦課処分の無効確認を求める原告の本訴請求は理由がないこと明らかである。

第二、昭和四三年(行ウ)第一二三号事件について

原告は、被告国税局長が原告に弁明の機会を与えることなく本件審査請求を棄却したのは違法であると主張するけれども、証人矢根軍市の証言(第二回)によると、東京国税局所属協議官が、同被告主張の頃三回に亘つて原告組合を訪れ、その代理人である矢根理事に会つて同人より審査請求の理由は原告が青色申告の承認を受けた事実を無視して本件更正処分等をなした点にある旨およびその事情につき弁明を徴していることが認められ、他に同認定に反する証拠はないので、原告の右主張は採用できない。仮りに、右協議官がその際、原告主張のごとく、税務署の方が悪いと洩した事実があつたとしても、それはあくまで審査請求の理由に関するその際の同協議官の感想を述べたに止まり、その点は、その後被告国税局長において審査のうえ理由なしとして棄却しているし、かつ、審査手続の違法とは直接関係のないことがらである。

第三、昭和四三年(行ウ)第二一二号事件について

一、原告は、被告税務署長の異議決定およびこれに対する原告よりの審査請求が既にされておる(昭和四一年一〇月一九日付)のに、これを無視してなされたみなす審査請求に基づく裁決は違法であると主張する。しかしながら、税務署長等の処分に対する異議申立は、処分のあつた日の翌日から起算して一年を経過したときは正当な理由がある場合を除いてこれをすることができないと定められている(国税通則法七六条四項)ところ、被告税務署長に対する本件異議申立は、処分のあつた日の翌日から起算して一年を経過したのちである昭和四一年七月二五日になされており、その期間徒過につき正当な理由のあつたことを認めるに足りる資料もない本件においては、それ自体不適法というべきであつて、仮りに、原告主張のような異議決定を経て審査請求がなされていたとしても、右審査請求は所詮不適法たるを免れえないから、原告の右主張は採用するに由ない。

二、原告は、みなす審査請求の場合に、その旨を異議申立人である原告に通知されなかつたのは違法であると主張し、被告税務署長が右通知をしなかつたことは当事者間に争いがない。

しかし、同通知について定めた国税通則法八〇条二項の趣旨とするところは、被告主張のとおりであつて、要するに一種の訓示規定と解すべきであり、これを欠くことにより本件審査手続の違法を招来するものではないと解するのが相当であるから、この点に関する原告主張は採用できない。

第四、叙上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がないこと明らかであるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 牧山市治 裁判官 上田豊三)

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